急に選挙になり世の中は騒がしいですが、今回の選挙の論点には全然なっていない医療制度について私の考えを述べたいと思います。世界に冠たる日本の「国民皆保険制度」。フリーアクセスと低負担で高度な医療を受けられるこの仕組みは、間違いなく日本の資産です。しかし、1961年の制度設計時と現在では、人口構造も疾病構造も劇的に変化しています。今、私たちに必要なのは、この資産を「壊す」ことではなく、現実を見据えて「再設計」することだと思います。
今回の選挙、そして近年の調剤報酬改定の議論を見るにつけ、私は現場の経営者として強い危機感を抱いています。それは、本質的な構造改革から目を背け、「分かりやすい敵(今回は小規模薬局や門前薬局)」を作って叩くことで、改革をやっている感を演出する風潮に対してです。
ここに、持続可能な医療制度への転換に必要な4つの視点のべてみます。
1. 「世代間仕送り」の透明化と覚悟
現行制度の最大の問題は、現役世代から高齢者への所得移転の構造が不透明であることです。「払った保険料が自分に返ってくる」という積立方式のような幻想を抱かせたまま、実態は現役世代が支える賦課方式で回っています。
本来、政治がなすべきは、この厳しい現実を国民に正直に説明することです。「どこまでを公助で負担し、どこからを自助(自己責任)とするか」。この痛みを伴う線引きの議論を選挙の票のために避けていては、すでに崩壊がはじまっている制度に拍車をかけます。
2. 「効率化」ではなく「優先順位(トリアージ)」の議論へ
「ムダを省けば財政は持つ」という理論はもはや通用しません。どの党も基本的には「医療制度は抜本的に変えずに今の制度を壊さず、効率化で乗り切る」路線。しかし、英国のNICE(国立医療技術評価機構)のように、費用対効果に基づいて保険適用の可否を決める「トリアージ」の議論を避けて通ることはできません。
日本ではこれを「命の選別」として忌避しますが、現実はどうでしょうか。薬価を無理に下げ続けた結果、不採算品の供給停止や限定出荷が相次ぎ、現場ではすでに「薬が届かない」という形での選別が起きています。なし崩し的な崩壊を防ぐためにも、正面から優先順位を議論すべきです。
3. 「治療」から「予防・健康投資」への構造転換
医療費の大半は、生活習慣病などの慢性疾患と終末期医療に集中しています。ここにメスを入れず、出口の調剤報酬だけをいじっても、まさに「焼け石に水」です。
本当に必要なのは、健康寿命を延ばすための予防医療への大胆な投資です。しかし、予防の成果が出るには10年、20年かかります。短期的な選挙サイクルで動く政治家にとってインセンティブが働きにくい領域ですが、こここそが国家百年の計です。
4. 小規模薬局叩きの「筋の悪さ」と地域の損失
最後に、昨今の調剤報酬改定に見られる「小規模薬局・門前薬局叩き」について苦言を呈します。
日本の医療機関の小規模分散構造(薬局6.3万、病院8,000、診療所10万以上)が非効率の一因であることは否定しません。しかし、今回の調剤報酬改定で考えると、数字で見ると分かりやすいんですが、
国民医療費:約48兆円(GDP比 約8%)
社会保障給付費:約135兆円(GDP比 約23%)
調剤医療費:約8.4兆円
薬局数:約6.3万軒
仮に今回の改定で調剤医療費3%削減できたとして(かなり強気な仮定)、
8.4兆円 × 3% = 約2,500億円
国民医療費48兆円に対して約0.5%。
つまり、どれだけ門前薬局を締め付けても、国民皆保険の延命にはほとんど寄与しない。削れるのは国家財政じゃなくて、現場の体力だけ。、全体への財政効果は極めて限定的であり、まさに誤差の範囲と言えます。(やってもやらなくても同じ)
そのわずかな削減効果と引き換えに失われるのは、地域住民の顔が見え、細やかな服薬指導や在宅対応を行ってきた「地域医療の毛細血管」です。
本来必要なのは、個々の薬局を疲弊させることではなく、地域医療構想のような「面」でのグランドデザインを描き、機能分化と連携を促す前向きな再編です。
政治家の皆様、そして有権者の皆様。
「薬局を叩けば医療費が下がる」という安易なポピュリズムに惑わされず、痛みを伴うが真に必要な「制度再設計」を訴える党は基本的にはどもにもいないですがめげずに小さい声ですが発信していこうと思います。
